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病気の話…医療と倫理について
倫理の問題(2)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

第36回

患者さん、その家族と医療者はその方の病状と状況について、最善を尽くしたいという考えと思いは同じはずです。
「私が重い病にたおれた時には、そのまま自然に眠らせてください。延命治療などをして家族や周囲の人に余計な心配はかけたくありません」とAさんはリビングウイルを記した手紙を妻に託していた。Aさんは70代で基礎疾患は高血圧症と不整脈。妻と毎日、散歩をするなどして健康に留意し二人で暮らしていた。その手紙の約1年後、突然、脳梗塞を発症して入院した。脳卒中は初めてであり入院治療も初めてであった。
しかし、脳塞栓症という心臓にできた血栓が血流に乗り脳の太い動脈血管を詰まらせるタイプの脳梗塞であり、左大脳皮質に広範囲の梗塞が生じていた。突然の発症、失語症、完全右片麻痺、意識障害と典型的な症状を呈した。2004年、巨人軍元監督、長嶋茂雄氏が発症したのもこの心原性脳塞栓症であった。
脳塞栓症の急性期治療を医療チームBは行い症状の回復に努めた。治療のため、また食事摂取ができない状態であり、IVH(中心静脈栄養)による高カロリー輸液で栄養を維持。
発症3週間後、すでに身体機能回復のためのリハビリが行われている。ADLはやや改善するが、現時点では寝たきりで完全介護が必要。意識障害はやや回復するものの意志決定を行えるほどの回復とまでにはなってはいない。失語症ははっきりしとした改善の兆しは未だ見られない。大きな後遺症が残る可能性は大きいこと、再発の危険性があること、現時点ではどこまで回復するかは不明であること、他方、失語症や意識障害が今よりも改善し、身体機能も今よりは改善する可能性があることを妻に医師は説明した。
その時、妻は「元通りとはいかなくても、寝たきりでは介護はできない。それに、夫は、このような手紙を私に渡している。延命治療になるのなら、点滴の栄養も減らしていってほしい」との意見を示した。
B医療チームは、「確かに現時点では、大きな後遺症が残る可能性があり、どの程度まで回復するのかは不明です。ただ、発語はできないが視線を合わせるようになった。右半身の麻痺を回復させるリハビリを行っており現状より心身の機能が良くなる可能性もあります。栄養補給を減量し中止する場合は、全身状態を低下させること、回復可能性をなくしてしまうこと、生存期間を短くすることは明らかです」と説明を返した。そして、家族の皆さんで話し合ってもらうようにと説明した。その1週間後、妻は点滴量と栄養量はやはり減らしていって欲しいと伝えてきた。
読者の皆さんならば、ご自分がAさんの妻の立場になったとして、どのようにお考えになるでしょうか。医療者とどのように話し合いをしていきますか。また、B医療チームは今後どのように考えどう対応していくべきでしょうか。