ニュース&トピックス

病気の話…医療と倫理について
倫理の問題(3)
東京保健生協精神科部長・大泉生協病院精神科
中島 昭 医師

第37回

インフォームドコンセントとは何か
先ずはインフォームドコンセント(IC)について。日本語訳では「説明と同意」という言葉が使用されています。「説明」と「同意」が並列していますが、どちらに重点があるでしょうか。ICは直訳すると「知らされた上での同意」となります。医療上の話であることが前提なので、補足すると「医師から必要な医療情報を知らされた上での患者の同意」という意味となり、力点は患者の「同意」にあります。
医療上の同意とは、治療や検査を医師から説明を受け、自らその治療を行うことに納得し、その治療を選択し決定するという行為のことです。これは医療上の自己決定権の行使と考えられます。日本国憲法第13条に幸福追求権が記されています。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」。自己決定権は、この第13条に基づいていると考えられています。

意思決定能力について
Aさんの脳卒中治療に関する同意ですから、Aさんと医師が診療契約を直接結ぶことが基本であることは言うまでもありません。Aさんが家族に助言を求めることはあるでしょうが、意思決定する主体はAさんであり、妻や家族ではありません。
Aさんが脳卒中に倒れる前であれば、医師と医療チームは、脳卒中におちいったAさんの病状とその最善の治療法について十分な説明を行い、AさんからIC、同意をしてもらうという原則を実行することができたでしょう。しかし、これは時間上の矛盾がある話です。医療の現場では、この時間上の矛盾がある状況が、患者さんにとっても、医療チームにとっても大変困難なことが生じやすいのです。
病気、特に重い病気は誰もあらかじめ予測していないものです。病気になって初めて、その病状や治療について具体的に考えていくということが普通だからです。そして、病気となった際に、意思決定能力がある場合と意思決定能力が低下もしくはないという場合があるということです。
Aさんは、意識が混濁した意識障害の状態にあります。この状態のAさんにICは可能でしょうか。ICが成立するためには、医師からの十分な情報提供が必要ですが、それとともに患者さんが医師の説明を理解する能力があるということが必要となります。意識障害の状態のAさんには意思決定をする基となる事理弁識能力(物事の実態や予想される結果を理解し判断する能力)が著しく低下していますからICを行うことはできません。それでは意思決定能力が低下して患者さん本人がICを行うことができなければ、診療契約を継続することができないということになるでしょうか。当然、そんなことはありません。意思決定能力がある場合もない場合も医療を受ける権利はありますから、どのように補うかを考えるべきでしょう。