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漢方の話…畑隅(はたすみ)に人参の花子守立つ(林火)
鉄砲洲診療所
沖山 明彦 医師

昔、朝鮮人参あるいは高麗(こうらい)人参は、労咳(ろうがい)(結核)のような重い病気の治療に使われた高貴薬でした。薬を買うため心身を犠牲にした話は多く残されています。朝鮮や中国からの輸入しかできなかった時代は、銀の流出のため窓口の対馬藩や特に幕府の財政が圧迫されました。国産化は、新井白石の進言や後の徳川吉宗により成功し、会津、信州、出雲地方で栽培されるようになりました。その経緯は以前書きました。明治政府の漢方排斥政策で人参の需要は減少傾向になりました。その後、漢方復活の運動が政府を動かし、様々な病気の治療に漢方の有効性が知られ医学教育にも漢方が取り入れられてきました。そして、超高齢社会になり、健康寿命が語られるようになった今日、人参が注目されています。
「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」は人参の作用を、「五臓を補い精神を安らかにし、魂魄(こんぱく)を定めて動悸を止め、邪気を払い、目を明らかにして心を開き智を益す。長く服用すれば身を軽くし年を延ぶ」と書いています。
疲労や衰弱、体力の低下に他生薬と配合され、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」やさらに大病の後などには、「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」を用います。胃腸に負担のかからない面からは「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」です。胃腸虚弱や消化不良には「六君子湯(りっくんしとう)」が用いられます。疲労や体力の低下、精神不安、動悸、不眠、健忘には「帰脾湯(きひとう)」なども用いられます。
ところで、「フレイル」です。漢方ではその一つが「気虚(ききょ)」ではないかと考えます。自覚症状でいうと「気虚」の症候は次の通りです。
(1)体がだるい、疲れやすい
(2)日中特に昼食後の眠気
(3)下痢しやすい
(4)眼光や音声に力がない
(5)気力がない
(6)食欲不振
(7)風邪を引きやすい。
これらを含め診察所見とで「気虚」を診断します。ここで大事なことは、名医湯本求真(ゆもときゅうしん)先生が指摘された「人参は万能の神薬に非ず」ということです。高血圧や実熱証には要注意です。実証はがっちりした体格で気力があり、疲れにくく眼光や音声に力があり、便秘しやすいという状態です。してみると「フレイル」はその反対で人参が合うのでしょうか。「人参養栄湯」については、フレイルや健康長寿について研究が進んでいるようです。
下呂温泉では、ゲリラ豪雨のなか、3年の古酒に会いました。老ね香なく熟成香でお見事な「天領」でした。